るいの家庭は母の仕事の都合で幼いころから引っ越しが多く、一箇所に一年といた記憶がない。 父が死んだ時も、引っ越してからまだ半月も経っていなかった。 小学校のクラスメイトたちは慰めの言葉を寄せるが、その瞳には隠しきれない好奇心が勝っていたのを思い出す。 或いは1年もいれば純粋に同情を寄せてくれるクラスメイトもいたのかもしれない。 だが、るいは彼らから見れば現れたばかりの異邦人であり、刺激的な話題を提供しただけの存在だったのだ。 大好きだった父の死を娯楽として消費しようとするクラスメイトたち。他人に対して嫌悪感を抱いたのはあれが人生で初めてのことだった。 畑野るいが他人に対して本格的に距離を置くようになったのはあれからだ。 すこしでも仲良くなれば人は人に踏み込もうとする。逆に敵意をもたれればそれはそれで攻撃材料を求めて踏み込む人もいる。 よって対人関係に求めるのは好かれず悪まれずの適度な距離感。そのためには突き放しつつも気をつかうようなバランス調整が肝要だったのだ。 そうしてうまいことやってきたのに、何の理屈もなく全力でるいの心に踏み込んできた少女がいた。 気がつけばトラウマを吐露して、それからるいは変わった、いや変えられたのだ。 こうして――、畑野るいにとって華咲うららは"特別な人"となった。 *** 朝の日課にランニングがある。コースは家から多祇神社の境内を往復するというものだった。 境内に入ったるいに気づいたしずくが、箒を手に笑顔で朝のあいさつをする。 「おはようございます、畑野さま」 「おはよう、しずく。今朝も早いね」 「ほんとうはもうちょっと寝ていたいんですけどね。畑野さまがくるから早起きしてるんですよ」 この他愛ないやりとりが以前までは楽しみだった。 けれど最近はどことなく焦れた気配を感じてしまうのは自分が意識しすぎているわけではないだろうと、るいは思う。 例祭から一月。しずくの方から「色々あるでしょうから、急いで答えを出さなくていいですよ」と言ってくれたので、それに甘えて保留にしている形だった。 (もちろん、そんなのは強がりなことくらいわかってる) この点、良くも悪くもうららが例外なのだ。告白してから1年でも2年でも待つとどっしり構えていられるのはフツーは出来ることじゃない。 そしてしずくのアプローチは遥かに手段を選ばないところがあって、このままではマズイと思いながらもズルズルときてしまった原因のひとつだった。 「畑野さま、今日はわたすものがあるんです」 「わたすもの?」 「ふふふ……妾の手作りお弁当です! お昼に食べてください!」 そういってしずくは脇に置かれていたあづま袋を手に取ると差し出してきた。 中身は重箱だろうと見て取れた。その大きさを見ただけでどれだけの手間をかけたのか察せられてしまう。 断るなどという選択肢はありえなくて、受け取った際のずっしりとした重さに、決断のときはいよいよ近づいているのだと悟った。 *** 冬服に切り替わったときは立っているだけで汗ばむくらいだったが、いまは歩いていても肌寒い。 まして日が傾きはじめれば寒さは増していく一方だ。しかしそんな寒さよりも、右腕に感じる重みのほうが遥かにつらかった。 (手間がかかっているんだろうなとはおもった。でも蓋を開けてみたら想像以上だった) これはもう潮時だと改めて実感させられるほどに愛情の込められた弁当だった。 母親の作ったものだと誤魔化したが、果たしてうららたちが本当に信じていたのかもわからない。 腹芸に関しては自分よりもずっと場数を踏んでいるだろうし、後ろめたさも相まってるいのほうが疑心暗鬼になりかけた。 自分という人間はもっと図々しいとおもっていたが、どうも裏切るような嘘をつける人間ではなかったようだ。 (ああ……、気が重いな) それはるいの人生で初めての感情だった。 この気持ちを伝えてしまえば、どう考えてもこれまで通りというわけにはいかないだろう。 るいにとってしずくは本当に相性の良い友人だったのだ。 或いはうららと出会うことがなければ、いずれそういう関係になっていたとも思う。 (でも、そうはならなかったんだよ、しずく) しずくに対して好意はある。 だが今現在の自分に彼女が求めるような感情があるのかといえば――、ない。 それがあの日の告白に対する、るいの答えだった。 *** 「しずく」 「畑野さま!」 多祇神社。境内に入って声をかけると箒を拝殿に立てかけてしずくが駆け寄ってくる。 「お弁当は、お口にあいましたか?」 「……うん」 「それはようございました」 口元を袖で隠してほほ笑む姿は、喜びに満ちていた。ますます気が重たくなる。 ナアナアに流してしまいたい気持ちに駆られる。ちょっとした会話でもすでに心地よい雰囲気を感じている自分がいるのだ。 (しっかりしろ、るい。言うんだろ) 自分に喝を入れると意を決して口を開く。 「あの、しずく……」 「お話なら社務所でしましょう? ちょうど静岡の親戚からおいしいお茶がとどいたんですよ」 しかしるいが口を開くよりも先にしずくがすすっと身体を寄せる。あずま袋を持った手を両手で掴んで胸元に持ち上げた。 目と鼻の先にあるしずくの顔。長いまつげに縁取られた瞳はるいに対する親愛に満ちている。それでも、とるいは言葉を重ねようとするが―― 「だから……」 「?」 ――小首をかしげられると、もう言葉は出なくなった。しずくはるいの反応をどう受け取ったのか、指を絡めながら顔を近づけてきた。 まずい、とおもった。また流されてしまう。下がろうにも両手は掴まれており、身体を密着させられる。やわらかな感触と体温。否が応でも生々しい記憶を呼び起こす。 脳が痺れて抵抗できないところに濡れた瞳が迫ってくる。刹那、同じことを繰り返すのかと頭の奥底から声が聞こえた。 「わかったよ。社務所にいこうか」 気力を総動員してどうにか流れを断ち切ることに成功したが、ここで決着をつけることはできなかった。 しずくもるいが流されなかったことに一瞬だけ不満げな気配を漂わせたが、すぐに気を取り直した様子でほほ笑む。 「それではまいりましょう」 いずれにしたところでホームに引きずり込まれてしまったのだ。彼女の優位は崩れない。 わかっていながらも手を引かれていく。結局またいつものように流されてしまうのかとおもったが、玄関に入ったところでしずくが止まった。 「お先に上がっていてください。ちょっと片付けておくことがありますので。いえ、お時間はとりません。すぐに妾もまいりますから」 「うん、わかった」 いつもどおりのほほ笑みだったが、そこに不安が混ざっていることがるいには気になった。 *** やはり気になって表に出れば――、何故かうららとしずくが対峙していた。 「……うらら?」 「る、るいさま……」 こわばった表情。まるで迷子の子どものような瞳。怯えたような声。あんなうららは初めて見た。 「畑野さま」 困惑する間もなくしずくの鋭い声。強気を装っているがその瞳は不安に揺れている。 「ん?」 「あなたにとって、この方はどういったご関係の人物ですか?」 立て続けに少女たちの予想外の姿を見せられてるいもまた困惑していた。 とにかく答えようと口を開く。もしこのまま言葉になっていればそれは極めて素直な気持ちだっただろう。 「うららは僕にとって――」 しかし答える間もなくうららは駆け出していってしまった。あわてて追いかけようとしたら右手を掴まれて引き止められる。 振り向けば両手で自分の腕をつかむしずく。そこにあったのはいまにも泣きそうな目だった。 「畑野さま! いかないで……ください……」 詳しい状況はわからない。 けれど断片的なやりとりを振り返るに、このふたりが自分のせいで対峙して、お互いを傷つけあったことは嫌でも察せられる。 しずくは間違いなく箱入り娘だ。だれかと喧嘩なんかしたこともないだろうにこんなことをさせてしまった。 殴った拳が痛むように、相手に向けた悪意はまちがいなく自分の心も蝕む。 これも自分が問題を先送りにしてきたせいだった。苦いものがこみ上げてくる。だがこうなってしまえばもう決断するしかなかった。 うららを追いかけるか。このまましずくの側にいるか。そしてるいの選択は決まっている。 「……ごめんね、しずく。キミの気持ちには答えられない」 うららを追いかけるために、或いは泣き崩れるしずくを振り切るように、るいは駆け出した。 *** さすが運動部だけあってうららの足はすこぶる速かった。階段を駆け下りて左右を見回してみたがもはや影も形もない。 「くそっ、まいったな……」 ケータイを取り出してコールしてみるが当然のように出ない。 ならばルキとケイに網を張ってもらおうとアドレス帳を開いて――、ふと心に引っかかるものがあって閉じた。 「……急ごう!」 駆け出するい。どう考えても合理的な考えではない。だがうららはそこにいるという不思議な確信があった。 *** 月明かりに照らされた学び舎。 裏門をよじのぼって入り込むと、木で作られたアーチを抜ければあとはすぐだった。 「いつも僕たちが集まってる裏庭にいるんじゃないかって思ったけど、やっぱりいた」 私立聖英中学校の裏庭にある洋風庭園。その片隅。ちいさな花壇の前に膝を抱えて座っている少女の姿があった。 「うらら」 るいの声にピクリと肩を震わせる少女――うらら。ますます膝に顔を埋める姿に申し訳なさを募らせる。 隣に腰掛けると、なにから話すべきかまったく考えていなかったことに気がつく。 改めて考えてみれば人生で初めての修羅場にどうしていいのかさっぱりわからなかったのだ。 なので、そのままつらつらと喋っていくことにした。 「えっと……あの黒髪で巫女服を着た子、しずくっていうんだけどね、知り合ったのは半年前。ここに引っ越してすぐだったんだ。一言でいえば気が合ったというか。それからは暇さえあれば神社に顔出したり、あと家からあの神社までちょうどいい距離だったから毎朝あそこまでランニングしてそのたびに談笑したり、まあ仲良くやってたんだ。……すくなくとも僕は良い友だちのつもりで、だったんだけど」 結局めぐり合わせが悪かったということなのだろう。 「先月ね、告白されたんだ。その場では返事は待ってくれるって話だったけど……、まあ焦れちゃったんだろうね。これは優柔不断な僕が悪かった。だからさっき断ってきたよ」 「……ことわった?」 「うん。さっき境内でふたりのあいだでなにがあったのかは聞かないけど、しずくがひどいことをいったとしたらそれは僕にも責任が……」 「……それはわたくしのせいですか……?」 「え?」 「わたくしが喧嘩をしたせいで……るいさまはそのような選択をしてしまったのですか……?」 顔を上げたうららの目からはボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちていた。 「また……! わたくしのせいでるいさまの人生の選択肢を……! ゆがめてしまったのですか……!」 「うらら落ち着いて。歪めるもなにも答え自体はずっと決まってたんだよ。それを先延ばしにしてたのは僕の責任であって、うららはなにも悪くない。悪くないんだよ」 悪くないと繰り返すがうららの涙は止まらない。かわいらしい顔だけに泣き顔はいっそ痛々しかった。 「いったいどうしたんだうらら。なんでそんな自責の念に駆られてるんだ」 「だって! わたくしのせいでるいさまの学校生活をメチャクチャに……! 入学式のあの日、クラスに顔をださなければ……!」 「え――、いまさら?」 素でツッコミを入れてしまった。 同時にしずくに言われてショックだったのはその指摘だったと理解する。というか指摘されるまで気がついていなかったらしい。 そりゃまあ計算してやったとはおもっていなかったが、改めて事実を伝えられるとすこし面食らう。 実はわりと天然なところがあるんだなと呑気に考えていたが、ますます涙目になるうららを見て慌ててフォローする。 「いや、でも、おそかれはやかれだったとおもうよ? それで僕を遠巻きにするようなクラスメイトなら、仲良くなっててもうららと付き合いがあると知ったらやっぱり離れていっただろうし……」 「つまり、けっきょくわたくしのせいでるいさまはクラスで孤立してしまう運命なんですの……?」 「まあ、うん、結論だけいえばそうだね。うららがいるかぎり、僕に一般的な学校生活なんてものは存在しないよ」 残念ながらこの点ばっかりは否定のしようがなかった。 そもそもるいが無頓着すぎただけで、聖英に入学する生徒は華咲の存在を意識しているのが当然なのだから。 村井はクラスメイトがるいを遠巻きにしているのは警戒心からといったが、そこにはもっとドロドロで複雑な感情もまとわりついているだろう。 「でも――、それがどうしたっていうの?」 「え……」 「ある人にいわれたよ。であったばかりの僕は、人との距離を臆病なほど気にしていた、って」 今ならそうだったとよくわかる。だからこそうららにしっかり伝えなければならない。 「うららはきっと無神経だったのかもしれない。でも、あのときの僕には、きっとそれがちょうどよかったんだよ」 「ちょうどよかった……?」 「もしもうららが無神経なくらい僕に踏み込んでくれなかったら……。きっといまごろは、もっと孤独な学校生活をおくっていたとおもうよ」 そう、だれにも心を開かず、一定の距離を保つことばかり考えていただろう。 たとえ物理的に人の輪に入っていても、精神的にはどうしようもないほど孤独な学校生活を送っていたはずだ。 でもそんな男にうららは踏み込んできた。人は影響される生き物だ。いつしかるい自身も人に踏み込むことをいとわなくなっていた。 「きっとうららに影響されなかったら、ケイとルキともいまみたいに仲良くなれなかっただろうね」 しずくとも――、とこの場でいわないだけの分別はある。とはいえ、今度はちがう意味で距離感が図りづらくなったのも事実。 ケイはボディータッチが増えたし、ルキがべったりするのは前からだが湿度が高くなったというか、どちらもふとした時に"匂い"が変わるのだ。 そうなると決まって変な雰囲気になるから対応に困る。ケイもルキも己より体格がいいから、ついこの間はあっさり拘束されて身体をまさぐりまわされたりもした。 いずれにせよ好意を持たれているのは間違いない。これはとても仲良くなったということで問題ないはずだ。 「堂々としていて、無神経なくらい自信に満ち溢れたうららだからこそ、僕は変われたんだ」 うららの肩を掴んで赤く腫れた目と目を合わせる。 「そんなうららだから僕は選んだんだ。きっと人生で初めて気の合った相手よりも、うららを選んだ。うららは、僕じゃだめ?」 「わ、わたくしだって! るいさまじゃないとイヤなんですの! たとえクラスから孤立させてでも! るいさまがほしいんですの! だけど! そんなことをしたわたくしにるいさまの側にいる資格なんてありませんの!」 まるで駄々っ子だった。 それまで思い描いていた超然としたうららの姿がどんどん消えていくのを感じる。 同時になにかがストンと胸に落ちた。 結局――、不安なのはおたがいさまだったのだ。 異性に好意を向けられたことも、好意を向けたことも、生まれてはじめてのことだった。 どこかでおたがいのことを偶像化してしまっていたのかもしれない。 「ここからやりなおそう」 「……え?」 「僕たちはきっと、なにもかもむつかしく考えすぎていたんだよ」 恋も愛も、その意味を自分たちはまだなにもしらないのだ。だから―― 「んっ……んんっ……!?」 ――るいはうららの唇を奪う。舌を入れてかき混ぜればうららもまた拙いながらも応じる。いつしかお互いの背中に手を回して抱き合う。 唇を離すと銀のアーチがかかり、やがてぷつんと切れた。頬を赤く染め、期待に濡れたうららの瞳をしっかり見据える。 「華咲うららさん」 「……はい」 「僕とお付き合いしてくれませんか?」 るいの言葉にぽかんとした表情を浮かべるうらら。 「やりなおすってそういう……。いえ、それはいいのですが。むしろるいさまから告白していただけて感無量というか。でもその、何かおかしいのではなくて? いまさっきのやりとりはやりなおすどころか、むしろもっと先に進んでいく感じの情熱的なアレだったのでは……?」 「でもこれくらいしないと聞いてくれなかったでしょ? それでお返事は? 情熱的なキスを返してくれた華咲うららさん?」 さきほどのことを思い出したのか一気に顔を赤く染めるうらら。 「〜〜〜もう! いじわるしないでくださいまし!」 「ははっ、かわいいなあ、うららは」 「もう! もう! その告白! つつしんでお受けさせていただきますわ!」 恥じらいからぷいっと顔を背けるうらら。一方でるいの方もいろいろとここまでが限界だった。 「……えい」 「ひゃっ!?」 るいはうららを抱き上げる。華奢だけれどもやわらかい身体。そのまま芝生の上に寝転がった。 「るいさま……?」 「今日は疲れたよ……すこしの間こうしててくれないかな」 「……ええ、よろこんで」 よく星が見える夜だった。 先程までの火照りも冷め、風の冷たさが身に沁みてくる。るいは胸元に身を寄せていたうららを抱き寄せた。 「うらら」 「……なんですの?」 「これからもたぶん、きっと色々あるんだとおもう」 「……はい」 「たのしいことも、つらいことも、めんどうくさいことも、たくさんあって、それは別に僕たちだけの話じゃなくて、生きていれば誰でも避けられないことなんだとおもう」 「……そうですわね」 「だからさ、これからもひとつずつ、僕たちで乗り越えていこう」 「……ええ!」 おたがいのぬくもりを感じながらまどろむふたり。そんなふたりの上に影が差した。 「ふたりともー!」 「うわ!?」 「きゃっ!」 やわらかな感触。まとめてぎゅーっと抱きしめられながらうららが声を上げる。 「る、ルキ? どうしてここにいるんですの!?」 「いつまでもうららが帰ってこないとルキから電話がかかってきてね、スマホの位置情報を辿ってここまで来たのさ」 「ほたる」 「こんばんはるいくん。まあるいくんもいるからボクは心配してなかったんだけどね。ルキが心配だっていうからさ」 「心配したんだよー! ふたりともなにやってたのー!」 うわーんと泣くルキの頭をうららは撫でる。 「ごめんなさい。連絡をいれておくべきでしたわね。この件についてはわたくしが癇癪を起こしたのがぜんぶ悪いんですわ」 「いや、問題を先延ばしにしてこじらせた僕が悪い。うららのことは責めないであげてほしいな」 るいとうららはとっさにおたがいを庇おうとするが、ルキとケイはそもそもまったく気にしていないという様子だった。 「責めたりなんかしないよー! 無事でよかったー!」 「ボクだってふたりが無事ならそれでいいさ。華咲家のほうもべつにキミたちを責める気はないとおもうよ? むしろ初めての痴話喧嘩に喜ぶんじゃない?」 「ちょ、ケイ!? あなたどういう認識をしているのかしら!?」 「どういうって……目を赤く腫らして服まで乱れてるんだからそういうことなんじゃないのかい? 仲直りはなかなか情熱的だったみたいじゃないか」 「情熱的って……!」 なにやら思い出したのか頬をカーっと赤らめるうらら。すかさずるいは口を挟む。 「あー、たしかにあれは情熱的なキスだったね」 「るいさまは黙っててくださいまし!」 うららのツッコミに目をまんまるさせるケイ。 「おー、あのうららがるいくんにツッコミを……。冗談のつもりだったけど、これはたしかに関係が一皮むけるような何かはあったみたいだねえ」 「ふたりだけ仲良くなってずるいの! なにがあったかくわしく話してもらうの!」 「ボクとしてはぜひとも情熱的な仲直りのご相伴に預かりたいところだねえ。よし、それじゃあこのままボクの寮に連行しちゃおうか。ルキ、うららをお願い」 「あいあいさーなの!」 そういってルキがうららを、ケイがるいをひょいとお姫様抱っこして移動し始める。 「くっ、まさかのやぶ蛇でしたわ……!」 「ははっ、さっそく乗り越えるべきイベントが起きたね」 笑うるいに頬をふくらませるうらら。 「もう、るいさまったら……。ちゃんと最後まで付き合っていただきますわよ?」 「もちろん。うららは僕の――"特別な人"だからね」 一瞬うららは呆気にとられた顔をして、やがて満面の笑みを浮かべるのだった。 〆 もどる |