ナイチチ少女はグラマラスの夢を見る





 休日。エミリアのマイルームにて。
 テーブルを挟んで、エミリアとルミアが向い合って椅子に座っていた。
 エミリアはポチポチとポータブルゲームで遊んでいる。
 一方で、ルミアはA4ノートを広げて、鉛筆片手に何やらうんうん唸っている。

「うーん、いまの時間軸だとこれ以上話を広げられそうにないし……。となれば、また3年後くらい時間をとばすとか?」
「……なんのはなし?」

 ルミアの独り言に反応するエミリア。視線は未だポータブルゲーム機に向けられている。

「なんのって、次回作のはなしよ。このゲームの」

 全力でメタだった。ルミアがうんうん唸っていたのはそのことだった。
 広げられたノートには色々な走り書きがされている。

「私の予想だとね、また3年後くらいに時間がとぶと思うのよ。となれば私は20歳。いよいよグラマラスな体型になった私が登場するのね……!」

 期待に胸を震わせるルミア。脳裏にはボンキュッボンな自分の姿が描き出されている。
 夢見るような瞳。「はぅ……」と熱っぽい息なんか吐いちゃって。その時が待ち遠しくて仕方がないといった様子だ。

「……あんまり期待しないほうがいいと思うわよ」

 そんなルミアに大して、呟くようにそう言うエミリア。その表情は心なしか冷めている。

「それって私が続編でグラマラスな体型になれないってこと!?」
「それもあるけど……いやいや、続編のはなし」

 エミリアがそういうと、ルミアは「やれやれ」と言った様子でため息をつく。

「なにいってるのよ。ファンタシースターも今や押しも押されぬハーフミリオンタイトル。セ○が続編を出さないわけがないでしょ?」

 「それもあるけど」の部分は華麗にスルーである。

「うん、出すよ。続編」

 さっきと真逆のことを言うエミリアに疑問を抱きつつ、ルミアは続ける。

「……? でしょう? だから、今から予想をね」
「P○Oの新作だって」
「……え?」

 エミリアはポータブルゲーム機の電源を落とすと、目の前のテーブルに置いた。
 透き通るような――まるで何もかも諦めたような瞳で、ルミアの瞳を見つめる。

「P○O2だって。PCで出すって」

 まさかの話。P○Oといえば、かつて数多の賞を取り、今に続く新生PSシリーズの基礎となったゲーム。
 その、正式ナンバリングタイトル。開発の主力がそちらに回されることは容易に想像がついた。となれば、ポータブルは。

「……そ、それってあくまでPCゲームでしょ? PS系列の携帯機で展開してるポータブルには関係ないはずよ! いうなれば、同時期に他機種で展開していたZEROみたいなものね」
「Vita版も出す予定らしいよ」
「え……」
「サーバーもPC版と一緒にする予定だって。今後は分かんないけど」
「……で、でも、P○O2が一段落したら……、そのときはッ」
「んー、それもどうなんだろ。P○Oが数年やってたのはいうまでもないし。当初つまずいたP○Uだって、ep2〜3で数年引っ張ったのよ? 当然、P○O2もすでに数年単位でのプランが立ってると考えるのが妥当だし……」

 エミリアによる考察に、徐々にうなだれていくルミア。

「加えていうなら、いちど断絶した世界観の続編がつくられたこともないし……。まあ、そもそもグラール舞台の物語はep3で完結してたハズでしょ。ポータブル2、インフィニティと続いたのがむしろラッキーだったんじゃないの? これで終わってもしかたのないことだって、あきらめも……」
「……大丈夫よ」
「え」

 うなだれていたルミアが、顔を上げた。その瞳には、強い光。
 椅子を蹴倒し立ち上がると、バンとテーブルを両手で叩き、熱弁する。

「セ○・PCオンリー・ネットゲームって時点で大ポカする未来は確定したようなもの! そう! スプ○ッ○ュゴ○フが初期の大ポカから立ち直れなかったように! そしてP○O2が派手にコケたその時! 私たちの出番よ! 今は精々P○Oの幻影に縋ってるがいいわ、最後に笑うのは――私たちよ」
「お、おぉう……」

 あまりにもギリギリな発言にエミリアどん引きである。
 もしP○O2がコケれば、そのままPSシリーズの命脈そのものが断たれる可能性も高いのだが……。

 くくく、ケケケと笑うルミア。未だかつてない勢いでキャラが崩壊している。
 この様子を見て、エミリアから言えることは何もなかった。

 ――しかし、ルミアは知らなかった。
 P○O2は派手にコケるどころか、セ○社内において"ミラクルヒット"と呼ばれるほど成功していることを……。
 こうなれば、確実に今後はP○O2をep2、ep3と引っ張っていくであろうことを……。
 グラール舞台の新作は、まずしばらく出そうにないであろうことを……。

 ――そして、ルミアは知らなかった。
 父方にも母方にも、ルミアの家系にグラマラスな女性など一人もいなかった事実を……。

「ナイチチだとか幼児体型だとか言ってられるのも今のうちよ……。次回作で大人の色香漂う妖艶な女となった私にひれ伏すがいいわ。ふ、ふ、ふ、ふ、ふ」

 ルミアは、何も知らない……。










〜あとがき〜

 初出はたしか'13年初頭くらい。
 web拍手のおまけ小説だから短めでした。
 メタネタでよろしければあと数本は書けるんですが、さすがに自重。
 いやなんか怒られそうだし……。

 


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