第四幕


 風は優しく頬をなで
 空は突き抜けるように青く
 太陽の光は万物に等しく降り注ぐ

 男たちは田畑を耕し
 女たちは洗濯物を干し
 子供たちは野を駆け回る

 そんないつもと変わらぬ平穏な日常に
 一人の少女は、思わず頬が緩むのを感じていた。


I miss you. 4


 …かつての騒乱より数年

 テラより離れ移住してきたジェノム達は、外側の大陸と言う過酷な環境での生活に追われることにより
 自然と人間関係にも摩擦が生じ、かつては希薄だった自我が育まれ
 今ではテラの人々の魂の器としてでは無く、一人一人が「個人」として生きていた。

 そして元々この村にいた黒魔道師達はと言えば
 かつての退廃的だったムードも、ジェノム達が持って来た黒魔道師生成の技術により
 自分たちの子孫を遺せる、つまり生きた証を立てる術を得られたことにより
 生きることに対し希望が沸き始めたこと、そしてそれに付随して
 わずかながらにも黒魔道師の短い寿命を延ばす術が見つかったことにより払拭され、今では皆精力的に生きていた。

 ジェノムと黒魔道師

 共に人々の様々な思惑によって「造られた存在」である、彼ら彼女らの共同生活は
 全てが全て順調と言うワケではないものの、それなりに上手く、平和にやっていた。

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「今日もいい天気…」

 そう言って洗濯したばかりの真っ白なシーツを物干し竿にかける少女、ミコト
 彼女も今ではすっかりここ、黒魔道師の村での生活に慣れていた。

「おーい、ミコト〜」

 そこへ籠を肩にかけ、片手で釣り竿を持ったジェノムの男が、彼女に声をかける。

「バート‥、魚は釣れたの?」
「おう、この通り大量よ。」

 そう言って籠の中身を見せるバート
 中にはたくさんの魚が詰まっている。

「今日は久々にあいつが帰ってくる日だからな
 コイツを使ってごちそう作ってやるんだ。」

 ニカッと笑うバート
 そしてそれにつられて笑う、ミコト

「ねぇねぇ、ミコトお姉ちゃん、バートお兄ちゃん」

 そこに駆け寄ってくる黒魔道師の子供

「なぁに?」
「おう、カーシー、どうした?」

 そしてそれに答える二人

 ミコトはしゃがみ、黒魔道師の子、カーシーと同じ目線で話を聞く体勢をとる

「アレはなに?」

 黒魔道師の子が指でさした場所を見るミコトとバート

「アレは…」

 その先に浮かぶのは…

「「…飛空挺?」」

「何でこんな辺境に…?」

 思わず立ち上がり、呟くミコト

「わからねぇ…」

 答えるバートも歯切れが悪い

 ただでさえ辺境の地である外側の大陸
 そしてその更に辺境にあるこの村に突然現れた飛空挺

 それも大型とまではいかなくとも、中型より大きい船だ。
 比較するならヒルダガルデ、アレを四周り程度小さくした物を想像すると分かりやすいだろう。
 恐らく内部には数十人前後の人間が収容されていることは想像に難しくない。

 おまけに慣例として飛空挺の船体には
 所属国のマークの表示が義務付けられているのだが
 あの飛空挺にはそのマークすら見当たらない

 何が目的なのか、何をするつもりなのか、そもそも何物なのか
 そのあまりの得体の知れなさ、正体不明さに、二人の困惑は深い

 困惑する二人を見て、キョトンとするカーシー
 ふと何かに気づき、ミコトの服を引っ張る

「ねぇねぇ、ミコトお姉ちゃん」

「…あっ、ごめんないカーシー、どうしたの?」

 困惑したとは言え、カーシーを無視した形になったことを謝り、改めて話を聞くミコト

「アレは何をやってるの?」

 そう言って飛空挺下部を指差すカーシー

「ゲッ…! アレはまさか?!」

 何かに気づいたのか、ミコトと黒魔道師の子を背中で庇うように抱きかかえるバート

 直後、響き渡る爆発音と共に吹き荒れる爆風
 飛ばされまいと必死に耐えるバートと、その胸にしがみつくミコトとカーシー

 ようやく爆風が止むと、バートは二人を離し、飛空挺の方向を見る。
 それに伴い、二人も同じく飛空挺の方向を見ると同時に、三人はその光景に絶句した。

 炎に包まれた田畑、そこかしこから響く悲鳴
 あそこで農作業に勤しんでいた人々がどうなってしまったのか
 想像するだけで背筋に冷たい物が走る感覚を、ミコトとバートは覚えた。

 カーシーもその阿鼻叫喚の図に恐怖を感じたのか、ギュッとミコトの服を掴む。

「一体…、何が起きたの…?!」

 呟くミコト

「あの飛空挺が空爆しやがったんだ…、ひでぇことしやがって…!」

 憤るバート

 そこで突然叫ぶカーシー

「ミコトお姉ちゃん! 危ない!」

「…え?」

 そこに迫る一つの影、音も無く、静かに、そして素早く接近してきたそれは
 右手に持った何かを振り上げ、ミコトを急襲する。

「んの野郎!」

 それに飛び掛るバート、全身黒尽くめの人間を力任せに押さえつける。

「バート!」

 叫ぶミコト、しかしバートはそれに叫び返す

「ミコト! コイツは俺が押さえつけておく! お前はカーシーを連れて集落まで逃げろ!」

「でも!」

「いいから早くしろ!」

 バートを、苦楽を共にしてきた仲間を見捨てて逃げるなんてことは出来ない!
 …しかし自分がここに居て何が出来ると言うのか?
 ミコトは唇を噛み締めると、カーシーの手を取り、集落へ向かい走る。

「そうだ、それでいい…」

 呟くバート、心なしか気の緩んだ刹那
 押さえつけていた者がバートの縛めから逃げようと必死の抵抗を見せる

「おぉっと! 離してたまるかよ!」

 更に力を加え、必死に押さえつけるバート

 その後方では飛空挺からは続々と人が降下し
 田畑で農作業をしていた人々を殺戮し始めていた…

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 断続的に起こる爆発
 そして響く悲鳴と怒号

 背後で起きているであろう惨事を背に
 カーシーの手を取り逃げるミコト
 彼女はこの時ほど己の無力さを呪ったことは無かった。

「お姉ちゃん…」

 ふと震えた声が聞こえる、カーシーだ
 ミコトは少年の不安に満ちた顔を見てハッとする。

 この突然の惨事で一番ショックを受けているのはこの子のハズだ
 それなのに年長である自分がしっかりしないでどうする

「…大丈夫、大丈夫だから、お姉ちゃんの手を、しっかり握ってるのよ?」

 ミコトは精一杯の笑みを浮かべ、カーシーにそう言う。

 そう、自分は無力だ、けれどせめて彼の盾になるくらいのことは出来るハズ…

 くしくも、その考えは彼女たちを身を挺して守ったバードと近しいものだった。

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 必死に走ること十数分

 ようやく集落にまで辿りつくと
 村のまとめ役アランが、皆に指示を下していた。

「女衆は子供達を連れては奥に避難しろ!
 男衆はここに残って連中の迎撃だ!
 ‥クソッ、一体何なんだ奴らは…ッ」

「アラン!」

「ッ! 無事だったかミコト!」

 駆け寄ってくるアラン、ミコトに質問を浴びせる。

「一体何が起きたんだ!? あの飛空挺は!? 畑で仕事をしていた皆は!?」

 突然の事態への混乱と、酸素不足に頭が回らないままにミコトは答える。

「飛空挺の空爆で田畑が焼き払われて…
 次に黒尽くめの男が私たちに襲い掛かってきて…
 それで、それでバートが私たちを庇って…
 田畑の辺りからみんなの悲鳴が聞こえてきて…」

 必死に頭の中で情報を整理し、伝えようとするミコト

 あまりにも断片的な情報
 しかし高地にある集落から見える田畑の様子と当てはまること
 そして何より、普段冷静な彼女がここまで焦ってる様から
 事態が思っている以上に切迫していることをアランは理解した。

「…そうか、分かった、ありがとう。
 …ミコト、田畑の人たちとバートは僕たちがどうにかする。
 君はカーシーを連れて先の洞窟へ避難してくれ。
 他の女衆と子供達、それと護衛の男衆はもう先に出てる、君も急ぐんだ、いいね?」

 頷くミコト、そしてそれに頷き返すアラン

 ミコトは黒魔道師の子の手を引き
 このような非常時に備え用意されていた洞窟へ向かい、駆ける。

「鍬だろうと何でもいい、各自武器になりそうな物を構えろ!
 いいか野郎ども! この村は何としてでも守り抜くぞ!」

 アランの怒号を背中に受けながら…

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 丘を登る一匹のチョコボ
 背にはたくさんの荷物と一人の男を乗せている。

「あと少し…」

 呟く男

「あと少しで村に着くんだねぇ…」

 その言葉には懐かしみが込められていた。

 この丘の頂に付けば、あの村を一望出来る。
 逸る気持ちを抑え、少しずつ登っていく

 そして頂に辿りつくと共に、男の顔が驚愕に固まる。

 村の人々が毎日汗を流し耕した田畑が
 四季折々のフルーツを実らせていた果樹園が
 あの美しい田園風景が、真っ赤な炎に染め上がっていた。

 そしてその上空を悠々と飛ぶ飛空挺に目が行くと共に、手綱を握る手に力がこもる。

「どこの誰だか知らないけど…」

 そして振り下ろされる手綱

「この僕がいない間に、随分と好き勝手やってくれたようだねぇ…」

 疾走するチョコボを駆る男の目には、怒りの色が浮かんでいた。

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「田畑の人とバートはどうにかする…か」

 アランはついさっきミコトに言った言葉を繰り返すと、血を吐くように呟く。

「そんなこと無理に決まってるのに…」

 双眼鏡に映る、田畑を、人々を蹂躙する黒尽くめの者達
 必死に抵抗する仲間達もいるが、明らかに形勢不利だ。
 敵は強い、仮に自分たち全員で真っ向から戦いを挑んだところで、良くて共倒れがいいところだろう。

 ならばどうするか、田畑を見捨て、集落の守りを固めての篭城戦に活路を見出す。

 本当なら苦楽を共にした仲間を、何よりアランにとって親友であるバートを見捨てたりしたくはない
 だが見捨てるしかない、必要あれば小を切り大を生かす、それをすべき立場にあるのがアランなのだから。

 本心では今すぐにでも加勢に行きたい自分の意思を殺し、頭の中で今後の対策を考えるアラン。

 幸い田畑から集落へ続く道には数多の罠が仕掛けてある。
 主に大陸の凶暴なモンスター用に用意したものであり、威力は相当、アレで相当数の敵を駆逐することが可能だろう。
 連中が罠に足止めを喰らっている間に、土壌を積み、塹壕を掘り、集落の要塞化を進めるのだ。

 …しかし何よりもアランが恐れているのは飛空挺の存在だった。
 田畑を蹂躙し終え、こちらへ意識が向いた際、もしアレを用いて空から直接急襲されたら…

 敵が降下するより早く撃墜すればいいだけの話かもしれない
 だがこの村には銃や対空砲やといった便利な武器は存在しない。
 頼みの綱は黒魔道師達の黒魔法くらいなものである。
 その威力は理解しているつもりだ、しかし飛空挺を撃墜出来るだけの威力があるのかと言えば疑問が残る。

 …アランは自分たちの立場をそれなりに理解しているつもりだった。
 「かつてこの世界に戦乱を招いた存在」、そこに自分たちの意思が無くとも
 そして直接的に関与していなかったとしても、周りの見る目はそんなところだろう。

 だからいつ恨みを持った者達に襲われてもいいように
 出来る範囲での戦いの用意はしてきた”つもりだった”。

 しかし現実にその戦いが始まってしまえば
 自分たちがいかに弱い存在であるかを嫌と言うほどに実感させられた。

 ”ひょっとしたら自分たちはここで終わりかもしれない”

 アランは頭を横に振ってその考えを払う
 そんな弱気でどうする、何があっても僕たち、いや、俺たちは生き残ってみせる。

 決意新たに、周りの人間へと檄を飛ばすアラン
 しかしその直後、一人のジェノムからの報に、顔を青ざめる。

「洞窟の方に小型の飛空挺が飛んできただって!?」

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 洞窟へ向かい必死に走るミコト
 バートは、アラン達は果たして大丈夫なのかと心配は尽きない
 が、自分に出来ることは、急いで洞窟へ避難し、とにかく彼らの戦いの邪魔にならないことしか出来ない

 そう、とにかく洞窟へ…

 そこで後ろから何かの倒れる音が聞こえた
 ハッと後ろを向くと、カーシーが倒れていた。

「カーシー!?」

 駆け寄るミコト

「いたた…」

 起き上がろうとするカーシー
 どうやら転んだだけのようだ
 恐らく石にでも躓いたのだろう。

「大丈夫? カーシー?」

「うん…、大丈夫だよ、ミコトお姉ちゃん」

 ミコトはカーシーの手を取り、立ち上がる手助けをする。
 そして少年の服に着いた汚れを手で掃ってやる。

 ふとミコトはカーシーの顔を見てみると明らかに疲れの色が浮かんでいる。

 考えても見れば彼はまだ生まれて1年程しか経ってないのだ
 (黒魔道師は人間に比べ遥かに早熟、故に短命)
 そんな子供が、ここ数十分程ずっと走り詰めだ
 自分だって疲れているのだ、彼の疲労は相当に深いだろう。

「…ここで少し休みましょう。」

 ミコトは提案する。

「え? けど…」

「集落からは大分離れてるし、少しくらいなら大丈夫」

「でも…」

 渋るカーシー、しかし疲労の色は隠せない
 どうしたものかとミコトが考え始めた、その時

 突然空から飛来して来たなにかが、彼女達のすぐ近くに落下した。
 ミコトは咄嗟にカーシーを抱え、その衝撃から庇う。

 ようやく衝撃が止むと、落っこちてきた何かから、声が聞こえた。

「あーあーあー…、また着陸失敗かよ…、不良品なんじゃねぇの? コレよぉ?」

 カーシーを抱きかかえたまま、ミコトはその声のした方向を見る。

「ったく、本当にイライラするぜ…、こりゃジェノムの人形共で…」

 そこにいたのは、あの時自分を襲った、黒尽くめの者と同じ格好をした人物だった。

「…おー、早速発見、こいつぁ幸先がいいなぁ? テメェもそう思うだろ? おい?」

 殺される、間違いなく殺される、全身に恐怖が走る。

 ゆっくりとこちらに近づいてくる黒尽くめの者

 逃げなければ、けれども体が動かない

 懐から飛び出す何か、カーシーだ。

「お姉ちゃんに手を出すな!」

「カーシーッ…ダメッ…!」

 静止しようとするミコト

 直後横に吹き飛ぶカーシー
 そのまま地面に二度三度体を叩きつけられ、ようやく止まる。

「カーシー!」

 叫ぶミコト。
 カーシーはそのまま気絶したようだ。

 …一体カーシーは何をされたのか、彼女には黒尽くめの動きが見えなかった。

「ッ鬱陶しいんだよガキが!
 本当にガキってのは大嫌いだ、うるせぇし身の程知らずだしキタネェしよぉ…」

 ぶつぶつと呟く黒尽くめ、ミコトは叫ぶ

「一体カーシーに何…をっ!?」

 直後民家の壁に叩きつけられ、首を押さえつけられるミコト

「何って? 蹴ったんだよ、手で触ったらキタネェからな?」

 ゲラゲラと笑う黒尽くめ
 キッと睨み付けるミコト

「おっ…、いいねぇ、その顔、そそるねぇ…
 よく見りゃなかなかの上物じゃねぇか…、こりゃただ殺すには惜しいなぁ…、おい?」

 下卑た笑いを浮かべる黒尽くめ
 そして間髪居れずにミコトの唇を奪う

 驚愕に見開かれるミコトの瞳
 優越感に染まる黒尽くめの顔
 しかし直後、その顔が逆に驚愕の色に染まる。

「…のアマぁ!」

 地面にミコトを力いっぱい叩きつける黒尽くめ

「テメェこのクソアマがぁ…ッッ! ジェノムの分際でよくも俺に傷を負わせてくれたなぁ!?」

 黒尽くめの口の端から流れる血
 そう、ミコトは黒尽くめの舌を噛んだのだ。

 咳き込むミコト、黒尽くめはそのミコトの髪を掴み、持ち上げる。

「徹底的にその体に刻み込んでやる! 身の程って奴をなぁ!!!」

 怒りに醜く歪んだ黒尽くめの顔

 自分はこのままコイツにいいようにされてしまうのだろうか…
 言い様の無い恐怖と共に、ふと、二人の顔が頭を過ぎる。

 そして唇は自然と紡いでいた、その言葉を

「兄さん…」

 直後、閃光と共に響く爆発音
 黒尽くめが気だるそうにその方向を向くと同時に、目が驚愕に見開かれる。

「おいおい…、嘘だろ、オイ?」

 その視線の先には、田園を空爆した飛空挺の崩れ落ちる様があった。

「どういうこった、連中に飛空挺を撃墜出来る装備があるなんて聞いてねぇ…ぞ…ッ?!」

 黒尽くめはそれに気づくと同時に、唖然とする。
 爆煙の向こうから一直線にこちらへ飛来する一つの物体

 思わずミコトの髪を掴んでいた手を離す黒尽くめ
 ドサリと、ミコトはそのまま力なく横たわる。
 地面に叩きつけられた際のダメージがよほど大きかったのだろう。

 フワッ、と黒尽くめと対峙する位置に降り立った男
 地面に横たわる自身の妹と、その少し離れた所に転がる黒魔道師の子を見て、彼…クジャは吐き捨てるように言う

「児童虐待に婦女暴行未遂…、ストレートにクズだね、君は」

 そしてゆっくりと黒尽くめに歩み寄るクジャ
 言いようの無い威圧感に圧され、後ろへ引く黒尽くめ

 民家の壁に背中をぶつけ、遂に逃げ場を失う黒尽くめ
 そこでクジャから放たれていた威圧感が霧散する。
 しかし恐怖から開放されることは無く、震えながらも黒尽くめはクジャから目が離せない。

 ミコトの元へ辿り着いたクジャは、しゃがみ、彼女の頬を撫で、言う。

「…大丈夫かい? ミコト?」

 ゆっくりと目を開くミコト、何とか言葉を発する。

「私は大丈夫…、それよりも、みんなは…?」

 ミコトの言葉に笑顔で答えるクジャ

「あぁ、それなら大丈夫、田畑を荒らす悪い害虫は、僕が一匹残らず駆除したよ。」

 その言葉にミコトは安著の笑みを浮かべると
 「そう…、良かった…」と言い残し、気絶した。

 …今回の作戦に動因されたのは正真正銘の精鋭部隊。
 さっきの話が本当なら、コイツは田畑にいたその精鋭を駆逐したことになる
 確かに俺と比べれば幾分か劣る連中だが、それでもたった一人のジェノムに駆逐されるハズが無い。

 有り得ない、そう頭の中で必死にクジャの言葉を否定しようとする黒尽くめ
 しかし彼は見てしまった、崩れ落ちる飛空挺から飛んできたクジャを
 たった一人で大型の飛空挺を撃沈したその様を。

「さて…」

 立ち上がりながら喋るクジャ

 ビクリとする黒尽くめ。

「残るは君一人なワケだけど…」

 再びクジャを中心に高まっていく威圧感

「まさかこのまま楽に死ねるなんて甘いこと考えてないよね?」

 そしてそれを全て自らに向けられ、黒尽くめの全身に恐怖が走る。
 掲げられていくクジャの右手、ビクリと震える黒尽くめの体

「うちじゃ捕虜に対する人権なんてものは無いから、よろしくね?」

 振り下ろされる右手、そして下される雷撃、黒尽くめの意識は、そこで途絶えた。

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 〜舞台は戻ってアレクサンドリア城、ジタンの部屋〜

 話を聞いていた俺は、アングリと口を開けていた。

「とまぁ…、そんなことがあってね…」

「って! ちょっと待てクジャ! それで? それで村の皆は? ミコトは無事なのか!?」

「うん、大体皆無事だったよ、ミコトは今では田園の復興作業に勤しんでるし…
 ただ…、田畑で働いてた人たちの殆どはダメだったんだけどね…」

「そうなのか…」

 空爆された挙句武装した兵士に急襲されたんだ
 当然と言えば当然の話なんだが…

 それでも死者が出たと言う事実に、心なしか重たくなる雰囲気。
 その雰囲気を払拭するように、なるべく明るい声でクジャは続けて言う。

「ただミコトを庇ってくれたバート、彼は片手を失ったけどなんとか元気にやってるよ。」

「本当か? それは良かった…」

 さすがに五体満足では済まなかったようだが
 それでも生きてるだけ僥倖ってなものだ
 今度ミコト達のお礼に酒でも奢ってやろう。

「まっ、そんなこんなで捕虜から情報を聞き出してね。
 何でも、もう既に一つの国を丸々自分らの手に収めたってことを聞いて
 コレは大変だと、それでそこはどこだと聞こうとしたら、あらら残念精神崩壊」

 『情報を聞き出した』なんてさらりと言ってくれるけど
 実際はかなりエグイことやったんだろうなぁ…、なにせ精神崩壊だし。
 でもミコトやカーシーに酷いことした(或いはしようとした)奴なだけに同情は出来ないよなぁ。

「そこでどうしようかなぁ、と考えて浮かんだのが
 ほら、ジタンって王女様と一緒に仕事で諸外国を周ってるだろう?
 だから何かおかしな雰囲気の国を知ってるんじゃないかなぁ、と思って、聞きに来たんだ
 そしたら丁度敵さんとジタンが対峙してるじゃないか、これは丁度いいと思ったんだけど…
 逃げられちゃってねぇ…」

 ハァとため息を付くクジャ
 返す返すも、連中を逃がしたのは本当に悔しいな…

「しかしおかしな雰囲気なぁ…
 そんな漠然としたことを言われても…」

 そう呟く俺、しかし、ハッとあることに気づく。

「なぁ、クジャ」

「なんだい?」

「その操作されてる人たちって言うのは、見た目はどんな感じになるんだ?」

「そうだねぇ、話に聞いた限りだと、感情が消え、表情が抜け落ちて無機質な感じになるって言うけど…」

 俺の予想はその言葉を持って、確信へと変わる。

「…ジタン、もしかして心当たりが?」

「あぁ、ある。」

「そこはどこだい?」

「そこは…」


 ―…ただ、その後行ったブルメシアの国王は、どうもなにかがおかしい
 ―顔から生気が感じられないというか……
 ―いや…、おかしいのは国王だけじゃあない、国全体がどうも沈んでいた
 ―国民一人ひとりの顔に、生気が無いと言うか…、どうも無機質なものを感じた


「…ブルメシアだ。
 多分、あそこで間違いない。」



続く


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